2017/3/16
道迷いの果てに・・・
ここは どこ?
最近高齢者の運転免許について問題視されている
判断力の衰え・痴呆・病気など車を運転するのに
支障をきたすお年寄りが増えているのが現状だ
記憶があいまいな老人の話
先週のことだ
週末の山歩きに向かった先は群馬県軽井沢から登る角落山
ウネウネと沢沿いを山に向かう細い道の突き当たりが登山口
駐車場は群馬一の秘境の温泉と言われる霧積温泉金湯館が管理
ここは「
人間の証明」の舞台となった有名な温泉地
金湯館に行くには立ち寄湯は駐車場から30分ほど
ホイホイ坂と呼ばれる山道を登らなければいけない
登山じゃなくても秘湯につかるには根性が必要
さて 不幸なおじいさんの話に移ろう
早春時期はまだお客さんも少ないであろう金湯館
不幸なおじいさんにとって運がよかったのは土曜日だったことだ
午前8時 金湯館の駐車場に到着した
かつて繁栄していた霧積温泉も現在は金湯館が一軒営業しているだけ
他の施設は取り壊されダートの駐車場には目印の水車と公衆電話
ふと見ると電話の近くには中年の男性とおじいさんが立っていた
親子にも見えないし友人でもなさそうな妙な組み合わせ
おまけに おじいさんは薄着でサンダル履き
とても山道を歩いて温泉に行くように見えない
あれ? 温泉に行く人たちかな?
こんな早い時間におかしいよね・・・
車を駐車場に停めると男性が公衆電話で
会話しているのが聞こえた
こちらに向かっているんですね
あとどのくらいかかりますか?
じっと男性を見つめる おじいさん
駐車した車から横を見るとボンネットが木にめりこみ
ホイルカバーも外れ大破している車が目に留まった
ありゃん? もしかして自爆?
車の中に戻って下さい
もうすぐ警察とレッカー車が来ますから
男性にうながされ おじいさんはスゴスゴと大破した
車の運転席に戻った
あちゃー
おじいちゃんひどくぶつかったもんだ・・・
何かお役に立てればと男性に状況を訪ねてみた
おじいさんと一緒にいた男性は地元の人で
オフロードバイクコースの下見に来たとのこと
車で駐車場に着くと どこからともなくおじいさんが現れ驚いたそうだ
おじいさん Uターンしようとして無理やり石に乗り上げて
思いっきりアクセル踏んだから木に激突したみたいですよ
痴呆が入っているらしく話がよくわからないんです
警察に連絡したのでもうじき到着すると思います
おじいさんに怪我はないのか?
慌てて運転席にいる おじいさんのもとに駆け寄った
おじいちゃん 大丈夫?
木に激突した衝撃でハンドルで顔をぶつけたのか
おじいさんの鼻は擦り傷で出血していた
どこから来たの?
・・・・・
握った手が冷たい
助手先にグローブが置かれていた
薄着の身体が小刻みに震えている
寒くない?
いつからここにいるの?
・・・・朝
昨日から車の中で夜を越したのだろうか?
長時間エンジンもかからない車の中にいたとしたら
さぞかし寒かったことだろう
おじいちゃん お家の電話番号わかる?
・・・・・
黙ってシャツの胸ポケットから紙の束を差し出すおじいさん
束ねた紙は一瞬トランプのように見えた
渡された束を一枚一枚確認してみると 免許・マイナンバー・診察券が複数
スタンプカードなど身分証明となるものがいくつかあった
車のナビはついたまま 今いる駐車場を示している
おじいさんがどうしてこの場所に来たのかはわからないけれど
ナビは行きたい場所にはつれていってくれなかったようだ
途方に暮れたおじいさん
現在自分がどこにいるのかわからず
ここはどこ?状態
車が動かないショックも重なりパニックになっているのがわかる
携帯電話は所持していなかった
お財布にはお金が入っていたから目の前にある公衆電話から
助けを呼ぶこともできたはず
声をかけてくれた男性は おじいさんにとって
どうにもならない状況を助けてくれる神様だったに違いない
こんな状況で おじいさんと男性を放置して
山へ行くわけにはいかないので警察が来るまで待つことに
おじいさんの家族に連絡しようと警察は試みてくれたが
おじいさんと共に暮らすおばあさんは現在病院に入院しているため
連絡がつかないそうだ
数分後 群馬県警のパトカーがやってきた
車から出てきた警官は早々に事情聴取にとりかかる
野外での業務的な聞き取り開始
大きな怪我はないものの おじいさんの体調を考え
せめてパトカーの中で話を聞いてもらえたらと思った
高みの見物みたいになってしまった ひとちがは放免
おじいさんを気の毒に思いながらもその場を後にした
どうしたかなぁ~
おじいちゃん
山を登っている最中も気になって仕方なかった
下山して駐車場に戻ると おじいさん・男性・パトカーの姿はすでになく
木にくすがった車も無事レッカーで運ばれていた
よかったね
おじいちゃん家に帰れたかな?
大丈夫でしょう
警察も来てくれましたから
午後3時 温泉宿泊者の車と数台 細い沢沿いの道ですれ違う
おじいさんはどんな気持ちでこの道を運転してきたのだろう?
きっと心細かっただろう
高齢になったら問題が起きる前に
免許の返還をしましょう
不幸なおじいさんの一件があった山奥の駐車場は
何事もなかったようにぽつんと置かれた公衆電話だけが
静かにお客さんを待っているのだった
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